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劇団四季「ウエストサイド物語」2016年2月26日観劇メモ

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劇団四季「ウエストサイド物語」(長いので以後、WSSと記載します)2016年2月26日観劇の感想です。

※過去にFacebookで非公開ノートに書いていたものを再編集しました。感想は基本的にはその時のものです。また、感想はネタバレです。

WSSは映画もあるし、超・有名な物語ですが、一応、補足しておくと、

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の物語を翻案し、背景を1960年代NYのウエストサイドの白人系不良少年グループジェット団とプエルトリコ移民の少年グループシャーク団の抗争に変えて、ジェット団の元リーダー・トニーとシャーク団リーダーの妹マリアの悲恋を描いたミュージカル作品。

なんと、初演から60年も経っています。

劇団四季「ウエストサイド物語」2016年2月26日のキャスト

ジェット団 シャーク団
リフ 松島勇気 マリア 山本紗衣
トニー 神永東吾 アニタ 岡村美南
アクション 岩崎晋也 ロザリア 若奈まりえ
Aーラブ 新庄真一 コンスェーロ 秋山 舞
ベイビー・ジョーン 横井 漱 テレシタ 村上今日子
スノーボーイ 川村 英 フランシスカ 小島光葉
ビッグ・ディール 高橋伊久磨 エステラ 相原 茜
ディーゼル 大森瑞樹 ベルナルド 萩原隆匡
グラジェラ 相馬杏奈 チノ 林 晃平
ヴェルマ 原田美欧 ペペ 川野 翔
クラリス 宮澤聖礼 インディオ 河津修一
ポーリン 伊藤瑛里子 アンクシャス 成田蔵人
エニイ・ボディズ 馬場美根子 ファノ 佐々木玲旺
第2幕第1場
ソプラノ・ソロ
片山美唯 ニブルス 大木智貴
大人たち
ドック 松下武史 シュランク 志村 要
クラプキ 荒木 勝 グラッドハンド 吉賀陶馬ワイス

劇団四季「ウエストサイド物語」2016年2月26日観劇感想

私、実は悲劇が苦手なので、過去の「ウエストサイド物語」観劇でもその苦手感はあったので、いつもの観劇のように「うわあ楽しみ!」という気持ではなかったけれど、

今回ばかりは本当に観てよかったと思いました。

WSSは、世界中のプロダクションでリニューアルが行われており、劇団四季も今回の公演に際してはブロードウェイからジョーイ・マクリーニー氏を招いて、演出、衣装、舞台装置、照明などを一新しました。
振付自体は変わっていないはずなのですが、テンポが変わり、セットが変わったことでまるで別物のように感じるところもありました。

以前の公演を観て私のようにもうひとつはまれなかった人には、だからこそ観てほしい。

あとは、

ダンスシーンを思い切り楽しみたい方。新しいWSSはダンスを見るだけでも価値があると思う。
『キャッツ』「コンタクト」『クレイジー・フォー・ユー』などのダンス難易度高い作品に出ているキャストが多く、この人もこの人も同じ舞台でいっぺんに観られて贅沢すぎで目が足りません。

ミュージカルはやっぱり歌!という方にも。トニー&マリアはもちろん、アニータ、リフ、アクションなどダンサー枠の歌も聴きごたえあります。そういえば、中心人物の中でベルナルドはソロがなかったですね。以前はカルテットにベルナルドのソロが含まれていたような気がします。

ミュージカルを観るならハッピーエンドで幸せな気持ちになりたい、という方には、辛い展開で辛い終わり方であることはお伝えしておきます。
表現がリアルになった分、私も以前の公演より数倍増しで辛かったです。

「不良少年グループの抗争」という設定のため、暴力、殺人、犯罪、性的な表現(暴力含む)があります。
もちろん、舞台表現として洗練されたものではありますが、そういう内容自体生理的にダメな方もいらっしゃるかも。
また、お子さんの年齢による入場制限はありませんが(当時はまだ3才未満も入れた)こうした内容であることを承知の上で、いっしょに見るかどうか検討されたほうがいいかと。

リニューアルによって、全体的に音楽と舞台転換がスピードアップし、以前は3時間を超えていた上演時間が2時間40分になりました。

私としては、以前の公演を観たときに感じた、古典の名作なんだろうけれどやや古い感じがしてリアルに共感できなかった点や、この救いようのない話と劇団四季の「人生は生きるに値する美しいものだ」というテーマがどう結びつくのか、納得できなかったところが、今回は完全に払しょくされました。

・・・なんか去年「コーラスライン」でも似たようなこと言っていたな、私。ACLでは演出のリニューアルはなかったけれど、それまでちょっと引いてみていたのが2015年の公演ですごく近く感じられるようになりました。

あと、過去のWSS公演ではなかなか10代の少年少女に思えなかったんです。
今回も実年齢で10代という人はいないし、アラサーくらいの方が多いし、ベルナルド・リフはアラフォーなわけですが、ちゃんと「少年、少女の話」に思えました。

2幕でジェット団の少年たちが、自分たちが不良になった理由を自虐的に語るナンバーがあります(ここもメリハリがついて、よりコミカルで面白くなっていた)。彼らはアメリカで生まれた白人だからアメリカ国籍はあるけれど、現実には親がアル中、ヤク中、娼婦など家庭は機能不全。家を出ている子も多い。

まだまだ子供っぽいベイビー・ジョーン、何かと彼の世話をしているA―ラブのやり取りなど、かわいいなあ、と思える面があるからこそ、この子たちに、 親や社会に問題があっても自分の人生を作るのは自分でしかないと、人を殺すのも、女性に乱暴するのも、犯罪だからという以前に人としてダメだと、誰がどう教えていればよかったのかと胸が痛いです。

(ベイビー・ジョーン役横井さん、A―ラブ役新庄さんは『キャッツ』少年猫コリコパットで同役キャスト、少年っぽい雰囲気ですよね)

劇団四季のファミリー作品は人が死んだり、悲劇で終わるものがわりと多いんです。子どもが他者を死なせてしまうお話もあります。

「たとえ子どもでも、やったら取り返しがつかないことがある」「与えれた条件がどうであれ、自分の行動は自分で選べる」「間違いってしまった後も、生きている人には生きていく責任がある」「他者と自分との違いを認めて赦すこと」を伝えようとしているのがファミリー作品です。

表現方法が違うけれど、WSSで四季が伝えたいことには、そういうこともあるだろうなと思います。

ジェット団のリフ役松島さん、シャーク団のベルナルド役萩原さんは、昨年は『クレイジー・フォー・ユー』ボビー役を同役で演じていた同士で、確か年齢も同じなのですが、同じボビーを演じても印象が違う二人の、動と陽のリフ、静と影のベルナルドの対比がよかった。

リフはトニーが抜けた後、外圧に対抗しながらメンバーをまとめアクションやディーゼルの暴走を抑えていたでしょうし、
ベルナルドは人種差別のために給料も低く社会的居場所がない仲間の生活を助けてもいたのでしょう。
(まあ、リフは大変とは言っても所詮子供の遊び、と言えなくもない。)

仲間のために我慢に我慢を重ねていた二人がナイフを手にしてしまった、タイミングの悪さ。

ベルナルドの恋人、アニタ役は『クレイジー・フォー・ユー』ポリー役(つまり、松島さん・萩原さん両方と恋人役でした^^)だった岡村美南さん。
今まで歌の印象が強かったけれど、ダンスのキレが素晴らしかった。
シャーク団の少女たちがあこがれるグラマラスで魅力的な大人の女性で、体育館のダンスの後のベルナルドとの言い合い・掛け合いは気心が知れた同士の絶妙の間合いでした。これがあるからこそ2幕が辛いのですが。

スペイン語は、シャーク団の中で使われると親しみと彼らがアメリカ社会で「異分子」であることを表し、
トニーの「 ブエナス・ノーチェス」は親愛の心、ディーゼルやアクションが使うスペイン語は侮蔑を表す、と効果的でした。

それから、男の子の格好をしてジェット団に入りたがる少女、エニイ・ボディズを、今回は馬場美根子さん(『キャッツ』ヴィクトリア、ランペルティーザ役)が演じていましたが、終盤からラストにかけて、この役の存在感がかなり大きかったと思います

エニィ・ボディズが少年たちの仲間に入りたがるのは、居場所を求めているだけではなく、何か自分の女性性を否定したくなるような理由があるはずです。具体的には明らかにされませんが、やはり虐待やトラウマが背景にあると思います。。

リフの死後、エニィ・ボディズはアクションに仲間として認められますが、
その後すぐに、自分の一言がきっかけで起こった事態を前にして、自分自身が女性だから、さらに、その当事者が自分が仲間になりたかった少年たちだということに大きなショックを受けることになります。

女の子であることには違和感があり、男にもなれないと分かって、今度こそ居場所がなくなってしまった。

ラストは、ジェット団とシャーク団の少年たちがトニーの遺体を掲げ、マリアがその後に続き、ほとんどの少年少女がそれにしたがって去ります。

マリアから視線を外し手を貸せなかったペペ、そのペペを見つめていたコンスェーロ、逮捕されたチノ、それぞれに去っていったエニィ・ボディズとドック。

そして、この場にいなかったアニタ。

ラスト、トニーとマリアが争いのない世界を夢見た「サムホエア」が流れますが、もちろん、ラストシーンの翌日からそんな世界が訪れるはずもなく、60年たった今でも形を変えて同じような事態は続いています。

物語の中には救いは全くなくて、
誰も幸せにならないで終わりますが、この続きは現実の世界で引き受けないといけないのですよね。

おまけ

2014年末の『アラジン』制作発表から1年と少し、劇団四季が広報でニコニコ生放送を利用していたことがあり、「ウエストサイド物語」でも、

リフ役松島さん、ベルナルド役萩原さん、アニタ役岡村さん、の3人の鼎談ていだんを、生放送したことがありました。

Tonight(Qintet&Chorus)のリズムがすごく難しい、という話で、

松島さんが「直前までトニーと芝居をしていて、いきなり”あてにしているぜ今夜”とソロになるので、入りそびれそうになる」とコメントしていました。

衣装合わせの時に、ジョーイさんから、ジェット団の女の子たちの体育館でのダンスパーティの衣装にダメだしがあって、
四季公式のtwitterでは、

という文章だったのですが、

萩原さんたちの話によると、ジョーイさんの指摘は、

「ダンスパーティに来た女の子たちは『抱かれたい』と思っているはず。このドレスでは誰一人抱きたくない(笑)」というニュアンスだったそう。

振り返ってみると、当時はまだ「『ノートルダムの鐘』を知らない自分」だった・・・
「サムホエア」のテーマは、この年の12月に開幕した「ノートルダムの鐘」の「いつか」に通じるので、今改めて感想を読むと「ノートルダムの鐘」に重ねていろいろ考えます。

また再演してほしいです。


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