劇団四季ファミリーミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』初演開幕初日の観劇感想


劇団四季ファミリーミュージカルカモメに飛ぶことを教えた猫

劇団四季が、26年ぶりに制作したファミリーミュージカルの新作『カモメに飛ぶことを教えた猫』、
2019年4月20日相模女子大学グリーンホールでの、初演開幕初日の感想をまとめました。

26年ぶりの新作ファミリーミュージカルで、
事前に発表されていたキャストが魅力的、ということもあって、初日のチケットはすぐに売り切れてしまったんですよね。
1階のやや後ろ目の席でしたが、2階がかぶらないくらいの位置で見られて、ラッキーだったと思います。

ストーリーを順に追っていく、という形でのネタバレではありませんが、演出に触れている部分があります。
未見で、これから観劇する予定の方はご注意ください。

劇団四季『カモメに飛ぶことを教えた猫』2019年4月20日感想

シンプルに主題を際立たせた四季版

『カモメに飛ぶことを教えた猫』の原作は、1996年に書かれた、ルイス・セプルベダの同名小説。

劇団四季のファミリーミュージカルとしての制作発表があってすぐ、ルイス・セペルプタの原作を読みました。

帯に

はじめてのことにチャレンジする愛と勇気

とあるように、「一歩踏み出す」「違うものを受け入れる」ことをテーマにしている点は、原作も四季版もほぼ同じ。

ただ、原作の方は、人間が関わる自然環境問題や人間の動物への接し方、といった要素もあり、

人間が原因の環境汚染

猫の掟=人間に不当に利用されないために猫が話せることを絶対に知られてはいけない

チンパンジーのマチアスの境遇や、飼育下動物についての大佐の言葉

などの、人間を批判する記述が多くあります。

その一方で、フォルトゥナータが飛ぶためのヒントを、ゾルバは人間=詩人(ブブリーナの飼い主)に求めます。
光と影、両方の面から人間が物語にかなり関わってくるんです。

「どうやったら飛ぶことができるのか」というゾルバの問いに対して、
詩人は、ある詩を教えるのですが、それが具体的にはどのように答えになったのか、さらっと読んでしまうとちょっとわかりにくい面もあります。

四季版のあらすじやキャラクター紹介を見て、人間が登場しないことは分かっていましたが、
実際に舞台を観ると、人間と、自然や動物との関係については、四季版ではカモメ、ネコ、ネズミ、チンパンジーたちの背景として「考えようとすれば考えられる」という程度の存在感でした。

原作では太っちょの飼い猫ゾルバの設定は、四季版では「幼い時母猫と死に別れ、やや気性が荒い面がある若い野良猫」に変わり、
フォルトゥナータが飛ぶためのヒントは、かつて人間とともに曲芸飛行をしていたチンパンジー・マチアスからもたらされることになっています。

人間対動物の構図をほぼ無くして、キャラクター全員を動物にしたことで、ちょうど『キャッツ』のように、どれかのキャラクターに、より観客がストレートに気持ちを投影させやすくなり、

自分の殻を破って、勇気を持って一歩踏み出すこと

というテーマが、シンプルに際立ちました。

フォルトゥナータは、飛びたいと心から願い、こわさを超えて、自分とゾルバを信じて踏み出します。
いいやつだけれど、手が出やすく雑なところがあったゾルバも、すべてをかけて守るものができたことで成長します。
マチアスとゾルバのトラブルは、ゾルバが他者(マチアス)が何かを大切する心に無頓着だったことが大きな原因ですが、そうした点でゾルバは大きく変わります。

観劇後に原作を読み直すと、キャラクターの設定や位置づけなどを変えてはいますが、
原作のこの部分、このセリフは、舞台ではこの場面にこめているんだな、という箇所もたくさんあり、メインテーマに関する部分ではかなり原作に忠実でした。

あおなみ
あおなみ
観劇と読書、どちらが先でも楽しいので、ぜひ原作も読んでみてください^^

『カモメに飛ぶことを教えた猫』の新しさ

私は、2014年以降は毎年2作品ずつ上演されるファミリーミュージカルはほぼ全部観ています。
『カモメに飛ぶことを教えた猫』は、今までのファミリーミュージカルのイメージからすると演出がとても新鮮でした。

26年前の新作「歌は友だち」はもう上演ラインナップから外れており、今上演されているのは比較的歴史が長い作品なのですが、

30年も経てば、ミュージカルの世界では色々新しい演出や構成が生まれ、劇団四季も海外作品の上演などでそれらの新しい試みを取り入れてきたのですから、
新作に反映されているのは当然ではあるんですよね。

『カモメに飛ぶことを教えた猫』について、Twitterでは『アラジン』『ライオンキング』をイメージさせる場面の感想をよく見ましたが、

私は、高さのあるシンプルなセット・照明・人の動きで見せる演出に『ノートルダムの鐘』の影響を感じました。特に最後の、塔の上のクライマックスの演出がとても美しいです。

他にも、ハンドクラップで始まる曲など『ソングアンドダンス』で使われてきた演出もあり、四季ファンとしては、ここ最近の劇団四季の集大成的な面からも、楽しめました。

あおなみ
あおなみ
もちろん、レパートリーのオマージュだけではありません。

この作品ならではの、新しく作り出されたものはというと、
私はオープニングがその一番手だと思います。

幕開きとともに光が差し、カモメたちが飛び立ち、海上を舞う姿。

見張り役のカモメの「発見!前方にニシンの群れ!」という最初のセリフが入るまで、この場面は音楽と照明、背景の波の絵柄と、アンサンブルのダンスだけで表現されます。

ダンスは、シアタージャズ系ではなく、コンテンポラリーの要素があるバレエのような振りです。

ファミリー作品のオープニングは、観客の子供たちの心を掴む重要なポイント(一般作品でも幕開きは重要ですが・・・)です。

今までの作品では、

  • 幕を開ける歌(王さまの耳はロバの耳)
  • 狂言回しの語り(むかしむかしゾウがきた)
  • 主人公の挨拶(魔法をすてたマジョリン)
  • 主人公の独白の歌(ガンバの大冒険)
  • 総踊り(嵐の中の子どもたち)

などを見たことがありますが、セリフなし歌なしの幻想的なダンスシーンから始まるパターンは初めて。

初日だったこともあって、ここに命かけるぞ!という演じ手の気合いを感じました。

はばたいたのは 君と 僕たちみんなの心

ファミリー作品では、舞台側から客席に向かって「語る」感じの物語の進め方がわりと多いのですが、『カモメに飛ぶことを教えた猫』の場合は、観客とキャラクターが同じ立場から体験するような演出が随所で積み重ねられていきます。

オープニングのすぐ後、カモメたちが恐れる黒い波が現れ、一羽のカモメがそれに飲み込まれてしまいます。
ケンガーとゾルバが出会って、かつて船乗り猫だった大佐が「海に捨てられた黒い油だ」というまで、劇中では、何が起こったのかが言葉で明かされません。

「なんだか分からない」ことで、観客の気持ちと、カモメたちの恐れや、瀕死のケンガーを見たゾルバの「なんのにおいだ?」「なんだこれ、どうしたらいいんだ」というとまどいとが重なります。

また、『カモメに飛ぶことを教えた猫』はファミリー作品でよく採用されている、舞台から客席に呼びかけて、一緒に歌って主人公たちを応援したり、舞台から客席に呼びかける形の観客参加タイプの演出がないのですが、
クライマックスのある演出は、塔の下から見上げる猫たち(と、+1)と、観客の目線が同じになります。

あおなみ
あおなみ
PVでは「はばたいたのは 君と 僕たちみんなの心」というコピーがありますね。
「僕たち」はもちろん、ゾルバたち町の猫なのですが、舞台でフォルトゥナータが飛び立った瞬間、観客も「僕たち」になる。これはぜひ体験してほしいです。

全体的に、言葉での説明ではなくて、観る側がイマジネーションを掻き立てられて心を広げていくような演出になっていて、作品として非常に見ごたえがありました。

キャラクターの魅力

先にも書きましたが、主人公のゾルバは、原作の親切なふとっちょ猫から、やんちゃな若いオス猫に変貌。ネズミを追い払う腕で仲間から頼りにされていますが、小さい頃に母猫を亡くした「傷」があります。
ケンガーとの3つの約束を果たすために「しっぽの誓い」を立てたものの、何日も卵を温めるのに飽きてゴロゴロしていたりもします。「ママじゃない、せめてパパだ」は笑いました。

あのなりゆきでマチアスの言葉の中に真実を見出してお礼を言えるのは、ゾルバ自身が、何がフォルトゥナータが飛び立つために必要なのかを考え抜いたからなのだろうと思います。

笠松哲朗さん、厂原がんばら時也さんのダブルキャストで、一般公演初日は笠松さんでした。
動きがキレッキレで、ファミリーなのでネズミは追い払うだけですが殺傷能力が高そうです・・・
もともと歌い手ではない方なのですが、『アラジン』『ソングアンドダンス』を経た後で、しばらくぶりに聞くと、張る音の響きもよいし、抑える部分がすごくよかった。
「あたしは猫よ」と飛ぼうとしないフォルトゥナータを見て、「空を飛ぶことを教える」約束を果たさなければ、と焦りながら、心のどこかでこのまま一緒に暮らせたら、と願ってしまう揺れる心に泣けました。

フォルトゥナータ役の横田栞乃かんなさんはほんとにかわいらしくて、あの感じで「あたし、ママみたいな猫になりたい」と言われたら、離れがたくなってしまいますよね・・・

ゾルバの幼なじみのメス猫ブブリーナは、しっかりものですが、飼い猫らしくお嬢さんっぽいところも。
ブブリーナは原作では詩人の家にいる町のオス猫たちあこがれの美猫ですが、原作では舞台のような役割はなく、ゾルバと知り合いでもありません。四季版の舞台化でかなり膨らませた役ですね。

初日は辻 茜さんでした。お見送りの時近くで拝見したら舞台でのイメージよりも小柄な方でした。ピンクのレーステープが付いた白い衣装がかわいい。

あおなみ
あおなみ
猫たちの衣装はどれも個性的で素敵なので、お見送りの時ぜひ近くで見てください!

原作よりも役割が大きくなったもう一つの役がチンパンジーのマチアス。
町田兼一さん、明戸信吾さんのダブルで、初日は町田さんでした。イケメンなのに、なぜか素の顔が出ない役が多い方ですよね。
町田さんはジェットサムやイアーゴではコミカルに作った声での歌い方ですが、マチアス役は歌い上げる部分が多い曲なので、たっぷりと、町田さんのすてきな声が聴けます。
四季のファミリー作品では、悪役のテーマ曲はなぜか演歌なんですが、マチアスが曲芸飛行をしていた過去を懐かしむ曲は演歌ではなかったけれどやはりムード歌謡っぽかったです(笑)。

博士は1幕では極端に振れているキャラクターが面白いのですが、2幕ではストーリーテラーの役割もあり、歌をきかせる役。
初日の博士役奥田さんには「エルコスの祈り」(ダーリー役)の時、カーテンコールですごい響く声が聞こえてくる!と思ったら奥田さんだった、という思い出があります。

待ちの猫たちのまとめ役、大佐は、志村 要さん、荒木 勝さんダブルキャストで、初日は志村さん。
大佐は、原作の大佐と「向い風」と呼ばれる船乗り猫を合わせたようなキャラクターで、かつて、人間の船で旅をしていた設定になっています。
私、観劇前はゾルバが「しっぽの誓い」を言い出すというイメージでいたのですが、実際には大佐から「しっぽの誓いを立てて町中の猫の助けを借りればカモメのヒナを育てられるかもしれない、ただし・・・」と言うんですね。
←会報誌の作品紹介をよく読んだらそう書いてありました(苦笑)。
「しっぽの誓い」ってすごく厳しいものなのですが、大佐はわりと「なに、なんとかなるさ」という感じで、楽天的なのか、ゾルバを信じているのか。こういうざっくりとしたキャラクターは、本当志村さんにあっています。

大佐を補佐する秘書は初日は三宅克典さんで、秘書は生真面目で礼儀正しいのですが真面目になるほど大佐との掛け合いが楽しい。そういえば、ハリー・ポッターの映画が公開されたころ、三宅さんがハリー・ポッターに似ているって言っていたファンの方がいたけれど、だいぶんベテランになった今でもなんとなくそんな感じがします。



劇団四季『カモメに飛ぶことを教えた猫』2019年4月20日キャスト

初日キャストと、2019年度全国公演の候補キャストについては、別ページにまとめました。

カモメに飛ぶことを教えた猫 初日キャスト

>>カモメに飛ぶことを教えた猫初日キャスト・プログラム掲載初日キャスト

開幕2回目の公演で、すでに候補キャスト全員が出演しており、今後も随時交代しながら全国を回っていくようです。

最後に

ファミリー作品は、けっこうシリアスでハードなお話も多いのですが、『カモメに飛ぶことを教えた猫』は全体のトーンも最後もハッピーで、しかもカーテンコールでもうひとつ、大事な演出があって、そこでマジ泣きしてしまいました。

物語の終盤、
「あたしのためにそんなことをしてほしくない」と言うフォルトゥナータに、ゾルバは、

「そうじゃない、自分がそうしたいからだよ」

と答えます。

こうした自己犠牲を単純に肯定していないところや、
「カモメか猫かなんて関係ない、おまえだからこそ愛しているんだ」「おまえはわしらの仲間だ、それでいいじゃないか」と、
さまざな形の愛・つながりを描いているところが今の時代のファミリー作品にふさわしいと思います。

カモメ、町の猫たち、地下に住むネズミたち、と動物の種類ごとの、さまざまなタイプのダンスが楽しかったです。
『美女と野獣』ドアマット、『ライオンキング』ハイエナダンサーの和泉澤広野さんのひねり宙返り見られてよかった!

音楽は宮﨑 誠さん。昭和に製作されたファミリー作品の親しみやすさとはまた違う、最近のアニメ映画のような、空間の広がりを感じる音楽でよかったです。
一緒に歌う場面がないこともあって、メインナンバーはすぐには覚えられなかったけれど、2幕最初の、♪フォルトゥナータ ぼくらの翼のある子猫♪ という歌詞が歌われるメロディーがすごく耳に残っています。

これから上演回数を重ねて進化するのも楽しみだし、初日で観ていないキャストで観るのも楽しみです。


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