劇団四季ファミリーミュージカル『むかしむかしゾウがきた』の初演は1980年の日生名作劇場。
1990年にはパルコ劇場で上演されました。
私の初見は、2014年~15年の東京公演です。
島村幸大さん、玉木隆寛さん、森真琴さんを初めて舞台で見た作品でもあります。
主役はなんと大きな「ゾウ」。
もちろん、パペットを人が動かしているのですが、リアルで存在感たっぷりのゾウを中心に展開するドラマチックなストーリー、純和風の演出など、見ごたえのある作品です。
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劇団四季ファミリーミュージカル『むかしむかしゾウがきた』ってどんな作品?
劇団四季ファミリーミュージカル『むかしむかしゾウがきた』は、故・長崎源之助氏の児童文学『むかしむかしゾウがきた』を元に制作された、劇団四季のオリジナルミュージカルです。
長崎源之助氏の作品の中では「人魚がくれた桜貝」という作品が、比較的よく知られているかもしれませんね。
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絶版になっているようで、マーケットプレイスではとんでもない値段です。
国立国会図書館の他、
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などに蔵書があります(2018年10月現在)。興味がある方は問い合わせをしてみてください。
劇団四季ファミリーミュージカル『むかしむかしゾウがきた』のあらすじ
戦国時代の日本の、とある国のお話です。
インターネットもテレビもない時代、ニュースは「ひろめ屋」が知らせていました。
ある日、ひろめやがすごい知らせを持って町にやってきます。
遠い「唐の国」から、この国のお殿さまへのおくりものを伴ったお使いがやってきた、というのです。
しかも、そのおくりものは、だれも見たことがないほど大きな生きものなのだとか。
そして、その生きもの「ゾウ」を連れた、唐の国のお使いがやってきます。
町の人たちは初めて見るゾウの姿に仰天します。
イモも人参もなんでもよく「食らう」ので、殿さまはゾウに「九郎衛門」と名前をつけ、法螺貝吹きの太郎衛門に世話係を言いつけます。すっかりゾウと仲良しになっていた息子の太郎坊は大喜びです。
太郎衛門の家にはゾウ小屋が作られ、毎日、遠くの村や町からも、おおぜいの人が食べ物を持ってゾウを見物に来ました。
最初は「化け物」と怖がっていた太郎坊の母親・おゆきも、今では九郎衛門を子どものようにかわいがっています。
ある日、山の向こうの北の村から、おミヨ、という女の子がたった一人で太郎坊の家にやってきました
おミヨは戦で両親を亡くしおじいさんに育てられていました。
うわさに聞いたゾウにどうしても会いたくて、一人で野菜を運ぶ牛車に乗ってきてしまったのです。
おミヨは一晩太郎坊の家に泊まり、翌朝太郎衛門が、村の方に行く牛車に乗せてやり、村に帰っていきました。
やがて、南の国との間に戦がはじまりました。
殿さまは、食べ物がなくなって九郎衛門があばれたり、敵に盗まれたりするといけない、と九郎衛門を殺すように命令します。
しかし、家族同様に大切にしている九郎衛門を殺すことなどできません。
太郎衛門は、おゆきと太郎坊に、九郎衛門を連れて、おみよのいる北の村に逃げるように、と言い渡して戦に向かいました。
太郎坊とおミヨは九郎衛門を連れて夜の城下を抜け出し、忍びの黒鍬隊の追手をかわして、山越えをしますが、山で吹雪にみまわれてしまいます・・・
『むかしむかしゾウがきた』のキャラクター
九郎衛門:
唐の国から、日本のとある国の殿さまにおくりものとして連れてこられたアジアゾウ(インドゾウ)。
なんでもよく食べる(食らう)ので、九郎衛門という名前をつけられた。
太郎坊:
九郎衛門の世話係となった太郎衛門の息子で、10才。
九郎衛門とは大の仲良し。九郎衛門をなんとか助けようとする。
太郎衛門:
法螺貝吹きだが、殿さまの命令で九郎衛門の世話係になる。おミヨが村に変えれるように手配したり、殿さまの命令にそむいて九郎衛門を助けようとする優しい人。
おゆき:
太郎衛門の妻。九郎衛門をこわがっていたが、一緒に暮らし始めてからは太郎衛門や太郎坊がやきもちを焼くほど、かわいがっている。
おミヨ:
北の村の娘。両親を亡くして祖父に育てられている。九郎衛門を助けるために村人を説得したり、敵兵が来たときに一人で太郎坊に知らせに走るなど、優しく勇気のある女の子。
ゴンじい:
おミヨの祖父。孫にはやさしいおじいちゃんだが、一度決めたことは絶対に投げ出さない。
与作:
ゴンじいと仲が良く、九郎衛門の扱いを巡って村人たちと仲たがいしてしまったゴンじいを助ける。
松蔵:
北の村の村人。太郎坊とおゆきが殿様の命令に反して九郎衛門と逃げてきたことを知り、巻き添えになるのを避けようと太郎坊たちを村から追いだそうとする。
殿様:
唐の国から送られた九郎衛門を国の宝にする、と言っていたが、戦が始まると、殺処分命令を出す。
唐の国のお使い:
九郎衛門を連れてきた中国の外交官。日本語が分からないふりをするなど、したたかな面を持つ。
ひろめ屋:
町や村にニュースをひろめるのが仕事。このお芝居の狂言回し。
『むかしむかしゾウがきた』のテーマ
2014年東京公演から、2015~2016年全国公演の『むかしむかしゾウがきた』のコピーは
というものでした。
ゾウの九郎衛門と
太郎坊一家、おミヨたちは、
共に生きる仲間として命を懸けてお互いを守ろうとします。
犬や猫のある品種がブームになった後で捨てられたりする問題は後を絶ちませんし、
大きな災害にあったときに、平時に家畜やペットして飼ってきた動物たちをどうするのか、
また、クマやサルなどの野生動物との軋轢をどう考え、どう解決するべきなのか、
など、今の私たちが直面する問題にも通じるテーマだと思います。
劇団四季ファミリーミュージ『むかしむかしゾウがきた』の見どころ
ビジュアルや音楽のイメージは、劇団四季公式PVをご覧ください。
「和」の世界と異国の空気
劇団四季のファミリーミュージカルには、昔の日本を舞台にした和物がいくつかあるのですが、
その中でも「むかしむかしゾウが来た」は戦国時代を舞台にしており、
歌舞伎の舞台のようなセット、ひろめ屋の口上、人形浄瑠璃と地歌で表現される九郎衛門を連れて逃避行、白衣の踊りと紙吹雪で表現される「雪」の場面など、日本の伝統芸能の手法を本格的にとり入れています。
その「和」の世界に、
インド~中国を経てやってきた巨大な動物=ゾウ(インドゾウ)とゾウを連れてきた唐の国お使い(中国の外交官)がもたらす「異国の空気」、
また、ゾウがたどった道を回想する場面でのインドや中国の風俗など、絵巻物のような世界が展開されます。
舞台美術と衣装は、『キャッツ』をはじめとする劇団四季の多くの舞台の美術を担当してきた土屋茂昭氏。
『むかしむかしゾウがきた』の衣装は、日本舞台美術協会の、2014年度伊藤熹朔賞 本賞を受賞しています。
リアルでかわいい「九郎衛門」
ゾウの九郎衛門は、特撮の怪獣などを作る会社が制作し、二人の俳優が入って動かしています。
ゾウの特徴である長い鼻をはじめ、まぶた、耳、しっぽが生き物のように動きます。
大きさは、6、7才の子どものゾウに近いようです。
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上野動物園にある、オスゾウ「アティ」が、6才でタイから来たときの等身大像です。
九郎衛門役の1人、佐藤幸治さんが、この像といっしょに映っている写真をSNSで見たことがあるのですが、だいたい、九郎衛門と同じくらいの大きさです。
(現在は、子供が登ったりしないように像の前にプランターなどが設置されています)
細かいことをいうと、前後に違う人間が入っているので本物のゾウのような「側体歩」にならないし、鼻も前後にしか動かないのですが、カーテンコールでは「かしこくごあいさつができる本物のゾウ」に見えてきたのは、中に入っている俳優さんおと、「九郎衛門」をゾウとして扱っている人間役の俳優さんの力ですね。
ゾウ役の俳優さんは、各地の動物園にいってゾウを観察して動きを研究しているそう。
小学校低学年の子供には本物に見えるらしく、幕間に「え、本物なの?」「違うでしょ?」と話し合っている子たちがいました。
太郎坊役の1人、横井さんにロビーでのお見送りで、「どうやって飼っているのですか?」と質問した子もいたそうです。
迫力あるダンスシーン
『むかしむかしゾウがきた』は、
- にぎわう城下町の様子を表すダンス
- 山間の村の人々が助け合って暮らす様子を表すダンス
- 「吹雪」を表す白衣の舞
- 忍者の殺陣
- インド舞踊、中国雑技団のアクロバット
と高度な技術が必要なダンスシーンが盛りだくさんです。
また、上にも書いた人形浄瑠璃を模した場面では、人が人形のように踊る、日本舞踊の「人形振り」があります。
悲しくなりすぎない演出
劇団四季のファミリーミュージカルの中には、シンプルなハッピーエンドで終わらない、シビアでビターなお話がけっこうあり、『むかしむかしゾウがきた』もそうしたややハードなお話の一つです。
といっても、『エルコスの祈り』などの作品紹介記事にも書いたように、
ファミリーミュージカルでは、カーテンコールやロビー見送りにすべてのキャラクターが笑顔で登場することによって、「さっきのことははお話なんだ」と区切りがつきやすく構成されています。
『むかしむかしゾウがきた』では、ゾウ役の俳優さん2人は
ゾウの九郎衛門として登場した後で、九郎衛門を動かしていた俳優としても登場します。
(ここの演出も思わず、にやっとしてしまう粋なものでした)
ロビーのお見送りでは、ぜひお気に入りの登場人物に会って、感想などを伝えてください(時間は短いですが・・・)。
劇団四季ファミリーミュージ『むかしむかしゾウがきた』の見どころ まとめ
こうしてまとめてみると、『むかしむかしゾウがきた』は、改めて、とても贅沢な舞台だなーと思いますよ。
実は、現在、インドや東南アジアで野生のアジアゾウは絶滅危惧種となっています。
その原因となっているのは、象牙のための密猟であったり、パーム油を取るための畑の拡張、製紙原料のための森林の伐採であったり、
と日本人の暮らしも無関係ではありません。
『むかしむかしゾウがきた』を観たら、ぜひそうしたことも考えたり、お子さんと話し合ったりしていただきたいと思います。