こんにちは、あおなみです。
この記事は、劇団四季ファミリーミュージカル「王様の耳はロバの耳」、全国公演の、東京、板橋区民文化会館での公演の感想です。
「王様の耳はロバの耳」観劇は、昨年5月の座間公演以来になるので、ずいぶん間があいてしまいました。
2018年の春休み夏休みは、劇場が少なくなっている関係だと思うのですが、ファミリーのステイ公演がまったくなくて寂しかったです。
1月6日では、それまでの公演で観られなかったキャストにも一部当たったし、いろいろ楽しかったです。
以下、感想はネタバレになります。
ネタバレを含まない(公演プログラムに掲載されているあらすじの範囲まで)作品紹介はこちらにまとめました。
タップして飛べる目次
劇団四季ファミリーミュージカル「王様の耳はロバの耳」2019年1月6日(板橋)のキャスト
王様 | 内田 圭 | 将軍ボイルドエッグ | 松下湧貴 |
ローストビーフ卿 | 澁谷智也 | 床屋 | 鈴本 務 |
アブラハムハム侯爵夫人 | 八重沢真美 | ニボシ | 堀米 聡 |
黒い探偵 | 田川雄理 | ナタネ | 柴本優澄美 |
詩人チキン | 野村数機 | 陽だまりの精 | 五所真理子 |
男性アンサンブル | 女性アンサンブル | ||
(ナマボシ・ミリンボシ)前田員範 | (ウメボシ)松尾千歳 | ||
(キリボシ)笠間大樹 | (アンズ)中村ひかり | ||
(町の男/木の精/兵士)暁 拳大 | (スモモ)小山百合恵 | ||
(町の男/木の精/兵士)石田悠馬 | (バラの精)柿野麻季 | ||
(いばらの精/将軍)菊池貴大 | (蝶の精)中川奈々美 | ||
ー | (露の精)塩入彩音 | ||
ー | (綿毛の精)深沢萌華 | ||
ー | (町の女/朝焼けの精)林 美菜子 | ||
ー | (町の女/夕暮れの精)川口侑花 |
劇団四季ファミリーミュージカル「王様の耳はロバの耳」2019年1月6日(板橋)の感想
床屋の成長
この作品は元が寓話で、戯曲としても詩のような抽象性があるし、これまで床屋さんはあまり色がないキャラクターと思ってたんですが、今日観劇して、意外としっかり成長してるんだなと思いました。
それと、お城から帰って、本当のことが言えないために町の人たちに避難される場面では、けっこう言い返したそうにしているのが(床屋には気の毒な展開なんですが)、「生きているキャラクター」が感じられてよかったです。
1幕で王様のロバの耳を見た床屋が、「あんな不思議なものを見たんだから黙っているなんてできないよ」と言うのは、素直ではあるけれど「子ども」の反応だと思います。
もしかすると、子どもたちはそこに共感するのかもしれませんね。
本当のことなのに言っちゃいけない、という経験は早い子だと幼稚園の年長くらいから始まっていると思います。
ローストビーフ卿のように家族を人質にして脅すのはもってのほかですが、
親から「そんなこと人に言うんじゃありません」と言われることはあるでしょう。
あるいは、「誰にも言わないで」とお願いされることもあるでしょう。
「王様の耳はロバの耳」のテーマは、「本当のことを言う勇気」なんですけど、本質は、言うか、言わないか、の問題じゃないのかもしれない。
1幕の最後、森の精たちが
「ほんとのことを言うたびに人もふるさとも生き返る」
「あなたが話せば、私たちが木の言葉で話します」
と床屋を励まします。
2幕で、床屋は町の人たちと詩人チキンを「王様に僕たちの話を聞いてくださいとお願いしよう」と説得します。
好奇心から黙ってられなくて言うのではなく、
本当のことを言った方が、自分たちにとっても、王様のためにも良いから。
床屋の生来楽天的なところは、ずっと変わらないけれど、辛いことを経たあとの2幕では、視野が広くなり、説得力や包容力もある大人に成長したことを感じるんです。
床屋は相手を責めず、間違いを認めてもマイナスにならないことを自然に伝えているのもいいですね。
劇中、床屋と陽だまりの精は本当のことを言う大切さを説きますが…普段のふたりは?
「僕はチキンさんタイプ。でも彼のすごいところは…」と、床屋が“意気地なし”と呼ぶ詩人チキンの魅力を熱弁する鈴本。五所も一番感動するという終盤のチキンのシーンは、ぜひ劇場でご覧ください。#アルプごはん pic.twitter.com/NWibeANP2I— 劇団四季 (@shiki_jp) 2018年5月25日
「意気地なしの詩人さん、お休みなさい」と言うときにも、人はそれぞれだから、という感じ。
意見が分かれると、子供たちも大人もどっちが正しい/間違えている、という争いになりがちですが、こういう床屋の姿は勉強になります m_ _m
本当のことを言うには勇気だけじゃなく、周囲の協力が必要です。
さらに、本当のことを言うにしても、あえて言わないにしてもその動機が思いやりや愛にあるのが大事なんじゃないかと思います。
鈴本さんは声もいいし、ダンスではシェネなどの回転系がきれい。今後もいろいろな役で見られるといいな。
人間の規範の外にいる森の精たち
五所さんの陽だまりの精は初めて(これまでは小林由希子さんで3回観ていました)。
ふんわり美人の小林さんに対して、五所さんは凛とした美人で、優しいけれど、芯に厳然としたものがありそう。
五所さんは「美女と野獣」ベル役でも見たことがあり、
陽だまりの精役でも、ベルの毅然としたところと通じるものがありますが、
陽だまりの精は精霊なので、人間とは違う基準で見たり、考えたりしている、という面も。
五所「私は、『違うな』と思ったことに関してははっきり言ってしまうタイプ(笑)。でも陽だまりの精はすべてを超えた存在なので、人間的な思考できっぱりものごとを言うのではなく、もう一歩先の、すべてをわかっている妖精としての次元の話し方をするよう心がけています」#アルプごはん pic.twitter.com/57MEmZoBYA
— 劇団四季 (@shiki_jp) 2018年5月25日
みんなが王様を怖がって何も言わない中で、床屋と陽だまりの精が、セリフの中で「王様の耳はロバの耳~」と節を入れて大きな声で言うのは、笑える場面でもありますが、特に陽だまりの精は、人間のルールの外の存在だから言える、という感じがします。
森の精たち自身は、王様がみんなの言うことを聞き入れず楡の木が切られてしまっても困らないのです。
物語の展開としては、床屋や町の人たち、そして王様のことも助けてくれているけれど、
人間の感情的な「助ける」じゃなくて、人が、自然に触れるといやされるようなことなのかもしれないし、自然の力は大きいだけにその力に接するのは怖いことでもあるなあ、と思います。
いぼらの精は、自由劇場と座間では文永さんで、『キャッツ』マキャヴィティ役でも披露しているアクロバットがすごかったんですが、今回のいばらの精・菊池さんは、ジュテアントルラセと開脚ジャンプの連続繰り返しで、こっちもすごかったです。
子供っぽい「王様」
内田さんの王様は初めてで、牧野さんよりも明るく高目の声で、若々しい王様。
その若々しさもあって、威厳を見せてはいますが、子どものまま大人になってしまったんだなあという印象。
「美女と野獣」でビーストが、「夕食を一緒に食べたいからだー!!」と地団駄踏む場面を思い出します(ビーストは20~21才、王様はそこまで若くはないと思いますけれどね)。
床屋が最初、素直で悪気はないけれど配慮やあってしかるべき警戒心もないところが子どもっぽい、と感じたのと鏡合わせに、
「悪い眠り」の中にいる王様も、良い意味での大人心を身に着けていない状態なんでしょう。
身近に感じるお城の人、町の人
お城の家来たちは、1幕の床屋とは反対に、王様の耳はロバの耳であることも、王様が日課を間違えたことも一切言いません。
これは、ある意味では「大人」で、社会性が発達している、「空気を読める」ということです。
お城の人達は怖い人・悪い人、っぽく見えますが、思ったことは思ったように言いたい、という床屋より、実は、お城の人達の行動のほうが身近に感じる、という大人も多いのでは・・・?
町の人たちの、素朴な「やっかいなことにはまきこまれたくない」という気持ちも動機の出どころは、お城の人達と同じ。
でも空気を読んでばかりいることに、詩人チキンはうんざりしています。
森に1人で言いたいことを言いに来たチキンの、王様の耳はロバの耳~の踊りがかわいい。
床屋に意気地なし、と言われてしまう詩人チキンですが、みんなで歌練の時はチキンさんも一緒に歌っていて、終わると「やっぱりやめておく」とお城に帰ってしまう、とブレブレです。ブレる、ということは迷っているんですよね。
今回の席、下手ブロックの前の方で、チキンさん客席から登場の時すごい近かったです。ここまで近いと、かえってガンミはできないものです(笑)。
物語の後、のびのびと言いたいことを言えるようになった詩人チキンの詩を聞いてみたい。
ボイルドエッグは、今までの観劇は3回とも中橋さんで観ていたのですが、初めて松下さんに当たりました。
松下さん、「コーラスライン」や「ガンバの大冒険」では、一人だけの歌や台詞がなく、今回初めて声を聴いたのですが、とてもいい声でした。
田川さんは、自由劇場公演ではアンサンブルで拝見していて、黒い探偵役では初めてです。
1幕の「この口告げ口あいくち(匕首)だ」のステップのキレがかっこいい。あと、こういう役って、なんかやる方みんな楽しそうですね(笑)。
今回、ナマボシ・ミリンボシ役だった前田さんは、ニボシ役をやることもあり、そちらもぜひ見たかったのですが、チャンスがなく残念でした。
いやでも、注目していると、ミリンボシ意外とセリフ多いですね。
床屋と陽だまりの精に説得されて、最初に歌いだすにも、ミリンボシだし。
前田さんはダンサーなんですが、声もいいので、これからもいろんな役で拝見したいです。(『アラジン』男性アンサンブル12で、ジャスミンに「支払い」を迫る果物屋や、「懐かしのオールディーズ」での細かい遊びが大好きです!)
ミリンボシ、キリボシ、町の男たちは長い髪や髭でアクロバットもするので、踏んじゃうんじゃないかとヒヤヒヤしました(笑)。
全体の感想
もともとこの作品は「絵本ミュージカル」として書かれていて、言葉の持つ音楽性などもかなり意識して構成されていると思うので、音楽とのなじみ方もすごくいいし、
作品紹介の記事にも書きましたが、
「王様の耳はロバの耳」
という単語を、ほぼすべて節をつけて歌うことで、普通に話すのとは違う意味と効果が生まれている点も優れていると思います。
この辺は、私の文章の感想では魅力がなかなか伝わらないところなので、また再演されることがあったらぜひ観ていただきたいです。
2019年5月から、同じ寺山修司脚本の『はだかの王様』が開幕しますが、私は未見なので、すごく楽しみです。
今回の席はサイドブロックの一番センター寄りの通路際で、前から4列目だったので、
キャラクターが通路に折りてきたときも良く見えるし、「王様の耳はロバの耳」を謳う場面では、陽だまりの精や綿毛の精が近くにいるので本気で歌いました(笑)。
妖精たちのシューズは、普通のバレエシューズを基に加工したもの。バラの精はブーツを履いているように見えますが、バレシューズを茶系の色にしてゲートルみたいなものを巻いてブーツに見せているんですね。ふわふわの黄色い綿毛をつけた綿毛の精のシューズも可愛いです。
バレエシューズは消耗品だし、人によって合うメーカーやサイズが違うので、飾りをつけるのは俳優さん自身もやるのかな?
2幕でシャボン玉を使った演出の時は、自分の上までシャボン玉が飛んできました。
「王様の耳はロバの耳」はわりとしっかりと「型」があるお芝居で、町の場面でもそんなに「ガヤ」っぽいシーンはないんですが、
ニボシとナタネの会話の間とか、町の人どうしが駆け寄っていく間には、意外とオフマイクでしゃべっているのに気が付けたのも前方席ならでは。
終演後のお見送りでは、露の精、朝焼けの精、ウメボシ、ミリンボシ、キリボシ、兵士、ボイルドエッグ将軍、ローストビーフ卿と、ハイタッチしたり、ちょっと言葉を交わさせてもらったりできました。
この後の一般公演は兵庫・四国・鹿児島。私はこれが今回公演最後の観劇になります。
皆さん、3月のツアー終了までお元気で!