劇団四季ファミリーミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』を見どころをまとめました。
地元の公民館で公演があるんだけれど、子供と行こうかな?と考えている方の参考になったらうれしいですし、
「ファミリー」ということで、大人だけで観に行くのはちょっと・・・と思っている方がいたら、ぜひ観てほしいです。
ファミリーミュージカルでは、いっしょに歌ったり、呼びかけに答えたりする客席参加型の演出が取り入れられている作品も多いのですが、『カモメに飛ぶことを教えた猫』ではそれらがありません。
また、カモメたちの飛翔のシーンも、クライマックスになるフォルトゥナータが飛び立つシーンも、あえてフライングなどの直接的な表現ではなく、”観客の想像力を信頼した”(四季の会会報誌「ラ・アルプ」5月号P35 )演出をしています。
シンプルなセットと俳優さんの演技、そして観客の想像力で完成する、という「舞台を作る・観る醍醐味」に正面から向き合った作品なので、
しっかりと理解できるのは小学校中学年以上かもしれません。
でも、
勇気を出して一歩を踏み出し、仲間と協力し合って困難を乗り換えるお話は、子どもたちが普段目にするマンガやアニメ、特撮ヒーローものにも通じるところがあるし、
キャラクターの個性がそれぞれ立っており、コミカルな場面もあります。
この記事は、公演プログラムや四季の会会報誌「ラ・アルプ」の記事以上のネタバレは含みません。
2020年2月3日より新型コロナウイルス感染拡大防止のためロビーでのお見送りが当面中止となりました。
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劇団四季ファミリーミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』ってどんな作品?
『カモメに飛ぶことを教えた猫』は、
劇団四季の、26年ぶりの新作ファミリーミュージカルとして、平成31年4月に初演開幕しました。
原作は、チリの作家ルイス・セプルベダの同名小説です。
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ファミリーミュージカルとは?
ファミリーミュージカルは、0才から観ることができ(会場によって年齢制限が異なります)、家族で楽しむことができる、劇団四季オリジナルミュージカル作品群です。
「こころの劇場」として、小学生を無料招待する公演と、一般の人がチケットを買ってみることができる公演を行いながら、
毎年、2作品が全国で上演されます。
劇団四季『カモメに飛ぶことを教えた猫』のあらすじ
ドイツの港町ハンブルグに暮らす野良猫ゾルバは黒い毛並みのオス猫。
ネズミ退治の腕で猫たちのリーダー”大佐”をはじめ、仲間の猫たちに頼りにされていますが、気が短くて荒っぽいところがあります。
ある日ゾルバは、原油の波をかぶって瀕死のカモメに出会い、彼女に卵を託されます。
「私の卵を食べないで」
「ヒナが孵るまで卵を守って」
「ヒナに飛ぶことを教えて」
カモメに亡くなった母の姿を重ねたゾルバは、カモメと3つの約束をし、カモメは1つの卵を残して息絶えました。
猫がカモメを育てて飛ぶことを教えるなんて無謀だ、と仲間たちは反対しますが、大佐はゾルバに「しっぽの誓い」を提案します。
「しっぽの誓い」は、それを立てた猫には町中の猫の協力しますが、もし守れなければしっぽを切られて追放される、という厳しい掟です。
ゾルバは、しっぽの誓いによって町の猫たちの協力を得ながら、卵を守り、ヒナを育てる決心をします。
卵の孵し方を、”博士”に聞きに行く途中、ソルバはチンパンジーのマチアスが昔の思い出の象徴として大切にしていた飛行帽を落としてしまいます。
マチアスは復讐しようとネズミたちをけしかけて、ゾルバたちの邪魔をします。
卵はなんとか無事に孵り、
フォルトゥナータ=幸運なものと名付けられたヒナはすくすくと成長し、60日が経ちました。
翼も大きくなり、普通ならそろそろ巣立ちの時期ですが、
フォルトゥナータは自分を猫だと思い込み、飛ぼうとしません。
仲間の猫たちはフォルトゥナータがかわいくて、「まだ子どもなんだから飛ぶのはもっと先でもいいじゃないか」と言い、
ゾルバ自身も、3つめの約束を果たさなければ、という気持ちと、フォルトゥナータとずっと一緒に暮らせたら、という気持ちの間で揺れています。
ところが、あるカモメと話をした時に、ゾルバは重大なことを知らされます。
「カモメは、ハンブルグの寒い冬に耐えられない。このまま町に残ればフォルトゥナータは死んでしまうかもしれない。」
それならフォルトゥナータに飛ぶことを教えて一緒に暖かい南に連れて行ってくれ、と頼むゾルバに対してカモメは、
「カモメにとって飛ぶことは当たり前。私には教えられない」というのです。
なんとかフォルトゥナータを飛ばせようとみんなが悪戦苦闘する中、現れたマチアスは
「ゾルバのしっぽと引き換えに飛び方を教える」
というのですが・・・
劇団四季『カモメに飛ぶことを教えた猫』のキャラクター
ゾルバ:黒い毛並みのオス猫。幼いころに母猫と死に別れた。すぐに腕力に訴えるところがあるが芯はやさしい。
ブブリーナ:ゾルバと幼なじみの白いメスの飼い猫。フォルトゥナータにとっては優しいお姉さん。
フォルトゥナータ:ケンガーが残した卵から孵ったカモメの子ども。ゾルバを「ママ」と呼び、「ママのような猫になりたい」と思っている。
大佐:町の猫たちのまとめ役。昔、人間とともに船に乗って旅をしていた。
秘書:大佐の世話をしている細身の猫。頭の回転が速い。
博士:展示館の中に住んでいる猫。百科事典に書いてあることを信じ、百科辞典を馬鹿にされると怒る。
マチアス:展示館の切符係をしている酔っ払いのチンパンジー。かつて人間の飛行士とともに曲芸飛行をしていた。
ケンガー:フォルトゥナータの実の母親。「黒い死の波」に飲まれ、瀕死のところ、ゾルバに出会い卵を託す。
↑
よこはま動物園ズーラシアにいる、キアシセグロカモメの若鳥。成鳥と比べて、翼の白とグレーの境界がはっきりせず、ぽわっとしたイメージです。
フォルトゥナータはこんな感じなのでしょうね(^^)
劇団四季『カモメに飛ぶことを教えた猫』のテーマ
テーマは、「勇気を出して一歩を踏み出す」。
お話のクライマックスは、
猫に育てられたフォルトゥナータが勇気を出して空に羽ばたくことができるのか・・・?
ですが、フォルトゥナータ以外のキャラクターたちの姿からも、
- 自分の殻を破ってチャレンジする
- 違いを乗り越えて理解しあう
- 必要なときには助けを求める
- 仲間と協力し合う
- 自分の過ちを認める
など、さまざま面から
勇気をもって一歩を踏み出すことで、その先に、新しい世界が待っている、
ことが描かれています。
『カモメに飛ぶことを教えた猫』の見どころ
音楽やダンス、衣装、セットのイメージは、公式PVを見てみてください。
安定感と新しさ
『カモメに飛ぶことを教えた猫』はファミリーミュージカルとしては26年ぶりの新作ですが、原作は児童文学作品として定評があるベストセラーですし、
今までのファミリーミュージカルと同じく往年の児童文学作品のような品の良さと安心感があります。
一方、演出、ダンス、音楽などの表現の点では現代的に洗練されています。
特に宮﨑誠さん作曲の音楽は、最近のアニメ作品のサウンドトラックみたいで、メロディー・リズムがかっこよくて、
空と海に向かって開かれたハンブルグの町の広場の空間の広がり、カモメたち、猫たちの躍動感が行き行きとあらわされています。
ダンスも、カモメ、猫、ネズミ、と本当は同じ人間が演じているのに、生きている場所、生き方の違い、大きさまで違って見えるのが不思議。
演出は、シンプルな大道具の組み合わせ方や見せる面を変えて別の空間を作り出す、という手法で場面を展開していきます。
ラストの演出はセットの上から客席通路まで大きく空間を使い、美しいシーンになっています。
ドラマとしては、ゾルバとフォルトゥナータの、血縁によらない家族の絆・愛を描いている点が、今の時代に上演されるファミリーミュージカルとしてふさわしいと思います。
共感しやすいキャラクター設定
主人公のゾルバは、キャラクター設定を原作の気の良い太った猫(飼い猫)から、幼いころに母猫と死に別れて生き抜いてきた若いオス猫にチェンジ。
強くて仲間に頼りにされていますが、すぐにケンカで勝負をつけようとする気が短い面は、子どもたちになじみがあるマンガやアニメの主人公に通じるところがあると思います。
ゾルバたちに嫌がらせをするマチアスも、根っから「悪」なのではなく、望まない境遇でいじけている思いを、まっすぐに困難に向かっていく猫たちにぶつけていて、彼にも共感できるところがあるんですよね。
野良猫のゾルバとは対照的に大事に飼われているブブリーナのお嬢さんっぽさ、大佐と秘書の掛け合い、好きなものをけなされたと思うと怒りだす博士、など、ゾルバの周りの猫たちのキャラクターが立っているのもおもしろいです。
大人も楽しめる深いドラマ性
まだ幼い時に、絶対安心できる居場所を失い、自分の力を頼みに生きてきたゾルバが、フォルトゥナータを育てる中で成長する姿や、猫たち同士の関係、
そして、「どうしたら飛べるのか」についてのマチアスの言葉など、
大人が「お芝居」を楽しめる要素もたくさんあります。
小学校高学年くらいの子なら、そういう部分にも目が行くんじゃないかと。
ダンス、音楽、演出については初日観劇の感想でも書きました。
ラストシーン含めて、あまりはっきりしたネタバレはしていませんが、より細かく内容に触れているので、今後観劇予定の方はご注意ください。
まとめ
今、テレビ番組などの映像系エンタティンメントでは、ぱっと目に入ったその一瞬で「分かる」ように、セリフやキャプションで説明することがわりと多くありますが、
演劇は、直接説明されない部分で、観客に想像の余地がたくさんある表現方法です。
『カモメに飛ぶことを教えた猫』では、一番重要なシーンで、「観客の想像力を信じる」という演出を採用しており、
子どもも、大人も、もし、今まであまり舞台を観たことがない人が観たら、きっと、新しい世界に触れることができると思います。
「親を失った子ども」だった主人公のゾルバは、フォルトゥナータを育てることで自分が親の立場に変わっていきます。
子どもも、成長に従って、「大切にしたいもの」ができることで感じることって、きっとありますよね。
観劇後にそういうお話ができるといいですね。